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広島高等裁判所松江支部 昭和26年(う)317号 判決

控訴人 被告人 李泰王

弁護人 森安敏暢

検察官 中野和夫関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人森安敏暢の本件控訴趣意は、末尾添附の控訴趣意書記載のとおりであるが、これに対し、当裁判所は、次のとおり判断をする。

(一)の1乃至4の点について。本来古物の取引に当り、何人が真の所有者であるかということは、古物営業法第一七条に基く記載事項に属しないのみならず、原判決挙示の各証拠によれば、原判決の別紙目録第一記載の物件は、いずれも常松アヤが盗難に罹つたものの一部分であること、又、同目録第二記載の物件中、一乃至三に該当する分は三代運市が、四に該当する分は平野房助が、それぞれ盗難に罹つたものの一部分であることが窺われる。而して、未だ使用されない物品であつても、使用のために取引されたものが、古物営業法にいわゆる古物に属することは、同法第一条第一項に明示するところであつて、古物商が、その営業のために、物品販売業者以外の一般顧客から買い受ける物品は、すべてこれを古物営業法にいわゆる古物として取り扱うのを至当とする。

本件において、被告人が鶴原亮から買い受けた物件中、たとえ、巷間においていわゆる新品に属するものがあつたにせよ、いずれも古物として取引されたものと断ずることは、寧ろ怪しむに足らない。所論は結局、古物営業法にいわゆる古物の観念に対する誤解に出で、独自の見解に立脚して、原審が適法に行つた事実の認定を論難するものたるに止まり、原判決には、所論にいうが如き事実の誤認あることが認められない。論旨は採用の限りでない。

(二)の点について。所論に鑑み原判決挙示の各証拠を精査するに、右各証拠により(1) 最初、鶴原亮が被告人方を訪れた際、被告人は、店舗の硝子戸を閉めた上、手真似で、鶴原を二階に案内し、以て鶴原との交渉につき、外聞を憚るような素振を示したこと(2) 被告人は、その買受に係る衣類等を、二階の押入の中に、投げ込むように入れ置き、恰も隠匿するが如く取扱つていたこと、及び(3) 物件の数量、価格に比し、代金が極めて低廉であつたことが認められる。これ等の事実を念頭に置いて、原判決挙示の各証拠を、綜合考察すれば、原審が、原判示第三事実摘示のように、被告人が、本件衣類を買い受けるに当りその贓物たるの事情を知つていたとの事実を推断したのは、その証拠に対する判断まことに相当であるといわねばならない。原審公判審理の際、鶴原の所在が明らかでなかつたため、これを証人として喚問することができず、その証言に代えて、同人の検察事務官に対する第二回供述調書を証拠として、適法に取り調べたものであることは、原審第七回公判調書によつて明らかである。されば、原審においては、十分にその審理を尽したものというべく、又、原判決には、所論にいうが如き事実の誤認を犯した形跡は認められない。論旨は採用することができない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条により、主文のとおり判決をする。

(裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 組原政男)

控訴趣意

一、原判決は事実の誤認があつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわねばならぬ。即ち本件記録を検討するに

(一)1、原判決が第一事実の判示における昭和二十六年一月二日頃被告人が自宅店舗において、鶴原亮より買受けた、黒色女物ラシャオーバー一着外七点の衣類(判決別紙目録第一記載のもの)が常松アヤの盗難被害品二十数点中の一部に該当するものでありとするも、果して新古品のいづれに属するか明確を欠くものがあり、

2、更に第二事実の判示における、同月十七日同所において同人より買受けた、華色オーバー一枚外三点の衣類(判決別紙第二目録記載のもの)も、果して平野房助三代運市両名中いづれの盗難被害品に該当し、又新古品のいづれに属するかも明確を欠くものがある。

3、そして元来被告人は阪神地方の問屋業者より仕入れる衣料の販売業者であるが、繊維品が統制せられていた当時においては衣料の交換場所には、古物商の許可者でなければ出入できないことにしていた、被告人の居住地方における同業組合の申合に基いて、被告人は古物商営業の許可を受けていたものであつて、許可後曾つて古物を売買又は交換した事実はない。

4、従つて右1、2、3、の事実を綜合して考察するときは、本件に対し原判決が被告人が古物商営業免許者であることを重視して判示したところは、事実を誤認したものというべきである。

(二)判示第三事実の贓物故買の点は、起訴状において「ねずみ色オーバー一枚外衣類九点を代金五千円で鶴原亮より故買した」という起訴事実に基くものであるが、この起訴事実は当初被告人が馬庭恆広より買受けたものだとせられていたのを原審において右馬庭恆広の証言によつて、売渡人は同人でなく鶴原亮であることが明白となつたものであるところ、馬庭恆広が警察及検察庁において取調を受けた際被告人に本件贓物を売渡したのは自分であり、そして被告人は贓物であるということを知つていた趣旨の虚偽の供述をそのまゝ鶴原亮と被告人との間の本件売買に引用せられたものであつて、果して被告人が知情の上買受けたものであるか否かの真実については専ら鶴原亮の供述に俟たなければならない。それだのにこのことなくしての判示事実は、事実を誤認したものといわねばならぬ。

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